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第2章 海外人事管理と国内労働社会保険の関係
3.海外勤務者の給与
 (3)海外勤務者の給与の支払地・構成項目・支給目的等の概要

 支払地で海外勤務者の給与を大きく分けると「海外払い給与」、「国内払い給与」、「国内払い賞与」に分けることができる。近年、海外給与決定方式としてバランスシート方式導入企業の増加によって、従来にはなかったインセンティブを支給する企業が増加しているため、「海外払い給与」と「国内払い給与」の捉え方は、海外勤務者の給与の構成項目が単に海外で支給されるか、国内で支給されるかの区別をつけるだけのものであると理解してよいだろう。
 しかしながら、国内労働社会保険の適用ならびに保険料賦課に関する各種判定を行ううえで、給与の支払地は非常に重要なファクターである。本件の詳細については、後述することとしたい。なお、海外勤務者の給与の支払地・構成項目・支給目的等の概要は、【図表2-3-3】のとおりである。

 【図表2-3-3】 海外勤務者の給与の支払地・構成項目・支給目的等の概要
構成項目 支給目的・意味合いの概要
海外払い給与 基本給 会社が適切と認める水準の生活を本人と家族が任地で送るに際し要する費用のうち、定期的かつ通常どの家庭にも共通して発生する以下の費用を賄うために支給される。
水道光熱費、食費(材料費、外食費)、被服費、私用に要する交通費(ガソリン代、一般交通費)、保健衛生費(理髪代、クリーニング代、保健薬代等)、通信費(私用の電話代・インターネット接続料など)、 雑費(日用雑貨類の購入費など)、交際費、自動車、基本的な家具・電気製品の償却費、維持費の全額または一部
家族手当
子女教育手当 帯同子女の通園・通学に直接要する授業料やスクールバス代などの子女教育費の実費全額(または個人負担額控除後の額)を会社が負担。実際には、実費の月割り額を子女教育手当として支給することが多い。
住宅手当 家賃の実費全額を会社が負担(または個人負担額控除後の額を会社が負担)。実際には、実費の月割り額を住宅手当として支給する。なお、家賃負担を手当の支給と位置づけずに、会社が家主と法人契約をし、実費を直接家主に支払うこともある。
インセンティブ海外払い 海外勤務者のモラール高揚が支給意義とされる。また、給与決定方式の変更に伴う調整給的意味合いで支給されていることもある。
ハードシップ手当海外払い 特別地域手当や慰労金とも呼ばれるこの手当は、日本と比べて自然的、社会的、利便性要因により、肉体的、精神的負荷が顕著に大きい地域で勤務する者に慰労を目的として支給。現地で支給。
その他海外払い手当 役職手当や責任者手当、時間差手当など。現地における交際費見合いであったり、国内と海外の所定労働時間差の現地通貨による補償であったり、超過勤務の一律補償であったり、その内容は様々である。
国内払い給与 国内支給手当 基本的には、海外勤務中も国内で継続して発生する社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)の個人負担分、赴任前年度分の住民税、労働組合費、互助会費などの非消費支出への充当が支給の目的である。支給額は国内理論内賃金の20%程度(モデルで約7~8万円)を目途とすべきとされている。
インセンティブ国内払い 支給目的は、インセンティブ海外払いと同じである。違いは、国内で支給する点である。
ハードシップ手当国内払い 支給目的は、ハードシップ手当海外払いと同じである。違いは、国内で支給する点である。
国内払い賞与 賞与は、通常、国内勤務者と同一基準で円貨建て円貨払いで国内で支給される(一方、現地従業員にボーナスが支給されても海外勤務者は支給対象外)。ただし、日本の源泉徴収所得税税額見合いを控除する企業が多い。賞与には、そもそも海外勤務への動機付けのためのインセンティブが含まれていると理解してよい。賞与の支給には、会社による帰任後の生活再設営費用の負担という側面もある(帰任後に必要となる日本での生活再設営費用は、帰任手当等の支給だけでは不足するから、一部、賞与からの貯蓄をその費用に充てる必要が生じる)。
注)給与の構成項目の支給目的・意味合いは、本来、海外給与決定方式によりが異なるが、ここでは一般的な内容を記載している。
出所:長澤宏著「海外勤務者の人事管理」、1998年、16~29頁を図表化

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