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第2章 海外人事管理と国内労働社会保険の関係
4.国内労働社会保険の海外勤務者への適用可否と保険料賦課の問題
 (1)国内労働社会保険の適用要件
  ①国内労働社会保険の法的効力と適用事業所

 健康保険法をはじめとした国内労働社会保険各法は、国内法(日本法)であるため、当然に海外事業場には法的効力が及ばない。そのため、国内労働社会保険各法は海外事業場には適用されないこととなり、海外事業場には任地における外国法が適用されることになる【図表2-4-1-1】。

 【図表2-4-1-1】 国内労働社会保険各法の法的効力

  ②国内労働社会保険の被保険者

 しかしながら、各社における海外勤務者の労働社会保険の適用等については、海外勤務規定などで「出向者に係わる本邦の健康保険、厚生年金保険、雇用保険は赴任後も継続加入する。」などと定めているのが一般的ではないだろうか。
 【図表2-4-1-2】に国内労働社会保険各法における被保険者に関する関係条文を示すが、「適用事業所に使用される者」、「適用事業に雇用される労働者」等として規定されていることがわかる。

 【図表2-4-1-2】 被保険者に関する関係条文
法律名称
(条)
関係条文(抜粋)
健康保険法
3条
この法律において「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう。[以下省略]
厚生年金保険法
9条
適用事業所に使用される70歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。
国民年金法
7条
次の各号のいずれかに該当する者は、国民年金の被保険者とする。
1.日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって次号及び第3号のいずれにも該当しないもの(「第1号被保険者」)
2.被用者年金各法の被保険者、組合員又は加入者(「第2号被保険者」)
3.第2号被保険者の配偶者であって主として第2号被保険者の収入により生計を維持するもの(第2号被保険者である者を除く。以下「被扶養配偶者」という。)のうち20歳以上60歳未満のもの(「第3号被保険者」)[以下省略]
雇用保険法
4条
この法律において「被保険者」とは、適用事業に雇用される労働者であって、第6条各号に掲げる者以外のものをいう。
労働者
災害補償保険法
(-)
第3条に「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。」と規定しているだけであり同法に被保険者の規定は存在しない。しかし、同法の趣旨からして労働基準法の「労働者」と同一であると解される。労働基準法にいう「労働者」とは、同法第9条において、「『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義されている。

ここでいう「適用事業所に使用される者」、「適用事業に雇用される労働者」等とは、
 「人事管理等がなされている」、
 「労務の提供がある」、
 「その対価としての賃金の支払いがある」などの要件を全て満たす者を意味しており、
 「事実上の使用関係」の有無によって被保険者資格の有無を判断している。



 この「使用関係」は、事業主との間の法律上の雇用関係の存否は、使用関係を認定する参考になるに留まり、名目的な雇用関係があっても事実上の雇用関係がないもの(国内事例:労働組合の専従職員など)は、労働社会保険の被保険者としないことを意味するものである。逆に事業主との間に雇用関係がなくても、事実上の使用関係が認められる場合(国内事例:名目的には請負作業者であっても指揮命令を行っている場合など)は労働社会保険の被保険者になるとされている(参考:昭和10年3月保発第181号)。


 労働社会保険の監督機関・窓口が、「人事管理等の有無」、「労務の提供の有無」、「その対価としての賃金等の支払いの有無」などを総合的に判断のうえ、「事実上の使用関係」の有無を判定し、被保険者資格の有無を判断するという実態主義の考えを貫いていることは、1999年の前回調査時にも述べたが、現在もその考え方に変化はないだろう。
 現行法制下において、海外勤務者に国内労働社会保険を継続適用させ得る法的根拠はここにあるといえる。

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