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移籍出向、在籍出向(駐在)、海外出張における海外派遣形態別の労働社会保険の適用比較を【図表2-4-2】に示す。
【図表2-4-2】 海外派遣形態別の労働社会保険の適用比較
移籍出向の形態で、海外勤務する場合は、出向元との雇用契約は解除され、移籍出向先との雇用契約のみとなる。原則として出向元との「人事管理等もなく」、「労務の提供もなく」、「その対価としての賃金の支払いもない」状態となり、3要件のいずれの要件も満たせないことから「事実上の使用関係」は存在しないと判断される。そのため出向元において国内労働社会保険の適用は受けられないことになる。仮に海外勤務が終了すれば、出向元に戻るという契約が存在したとしても、出向元との雇用契約は一旦解除されることから、この場合も出向元において国内労働社会保険の適用は受けられないことになる。
一方、海外勤務者の大多数が当てはまる在籍出向(または駐在)の場合はどうだろうか。
在籍出向期間中、海外勤務者と出向元との間の雇用関係が維持され、直接的又は間接的に出向元企業に労務の提供があり、なおかつ、出向元より何らかの形で国内払い給与が支払われる場合は、出向元で適用されていた国内労働社会保険の被保険者資格を継続することになる。
しかし、出向元企業の制度上、海外事業場より給与の全額を受ける(出向元からの国内払い給与がない)場合や、制度上、出向元を休職して海外事業場に勤務する場合などで出向元企業への復帰時期を定めることなく国内払い給与が全く支給されない場合などは、出向元企業が海外勤務者との間で使用関係を維持していると主張したとしても、事実上の使用関係が消滅したとみなされる可能性が高いだろう。事実上の使用関係が消滅したとみなされれば、被保険者の資格を喪失することになる。
一般的な海外出張であれば、労務を提供する場所が海外であること以外は、日本国内勤務時と基本的に条件変更はないことから、労働社会保険の適用要件(「人事管理等が行われる」、「労務の提供がある」、「その対価としての賃金等の支払いがある」)を全て満たすことになり、当然に被保険者資格を継続することになる。
しかし、長期間にわたり海外出張する場合では、注意が必要なケースがある。例えば、海外事業場のために長期間にわたり海外出張し業務遂行する場合や海外事業場より給料支給を受ける場合などである。国内労働社会保険の適用要件のいずれかを欠くことにより、出向元企業における事実上の使用関係が消滅したものとみなされる場合は、被保険者資格を喪失することになる。
このようなケースは、労働社会保険の適用問題に留まることなく、法人税や所得税などの税務上の取扱いやビザなどについても多々問題があるため、早期に適正な形態へ是正する必要があるだろう。