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第2章 海外人事管理と国内労働社会保険の関係
5.海外勤務者に対する国内労働社会保険の保険料賦課の問題
 (2)海外勤務者に対する国内労働社会保険の保険料賦課の根拠

 【図表2-5-2-A】は、国内払い給与は出向元企業(国内事業場)が支払い、海外払い給与は出向先企業(海外事業場)が支払うという前提で、
①健康保険・厚生年金保険、②雇用保険、③労災保険の保険制度毎に、国内勤務者と海外勤務者の保険適用と保険料賦課に関する項目を比較・整理したものである。

 【図表2-5-2-A】 国内勤務者・海外勤務者別の国内労働社会保険の保険適用・保険料賦課比較

                            報酬支払いの前提:国内払い給与は出向元企業(国内事業場)が支払う
                                         海外払い給与は出向先企業(海外事業場)が支払う

 この内容からもわかるように、出向先が海外事業場の場合、適用問題の箇所において指摘したとおり、国内労働社会保険各法は国内法であり、海外事業場にその効力が及ばないことから海外事業場は適用事業所とはなり得ず、適用事業所ではない本邦外の事業場から支払われる報酬は保険料賦課の対象とならないことがわかる。
 その結果、【図表2-5-2-B】に示したように、出向元企業である日本国内の適用事業所(事業主)から支払われる報酬のみが保険料賦課の対象となることが理解できる。

 【図表2-5-2-B】

 一般的に海外勤務に伴い国内払い給与は大幅に減額されることは【図表2-3-4】「海外勤務者の給与の例示」にて示したが、国内払い給与のみを保険料算定の根拠とすると、結果として大幅に保険料が低くなりその点においては出向元企業および海外勤務者本人の保険料負担が軽減され、あたかもメリットがあるかのように映る。
 しかし、保険給付に視点を変え、一例を挙げると、長期保険である厚生年金保険は被保険者期間の長短と報酬の高低が将来の給付の受給資格および給付金額に直接的な影響を及ぼす保険制度であるから、大幅に減額された国内払い給与のみを保険料算定の根拠とすると、その期間が長期になればなるほど将来の保険給付額が国内勤務者と比べて劣る(低くなる)という問題が発生する。
 日本と社会保障先進国との間で締結・発効された社会保障協定が適用されても、主として年金制度の被保険者資格を継続することで相手国の制度加入を免除するに留まり、納付する保険料の問題は解決できていない。これは相手国での二重加入を防ぐこと(「保険料の二重負担の防止」、「年金加入期間の通算」)が第一義的な目的となっているからである。
 海外勤務者を送り出す日本企業の多くが、従来から国内勤務者とのバランスを考慮し、次善策として「仮に国内勤務をしていたら支払われることとなる賃金(いわゆる基準内賃金)」を保険料算定の基礎として、健康保険・厚生年金保険の算定基礎届を作成・届出しているのが実情である。この問題に対する取扱いと提言については、個々の制度のところで見ていくこととする。
 以下、【図表2-5-2-C】及び【図表2-5-2-D】にて、月例給与と賞与に区別し、海外勤務者に対する国内労働社会保険の保険料賦課の例示を示す。

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